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伝えたいこと2016 Vol.01


悪い王様の居ない社会で生きる難しさ
中村悦大
私は政治学と行政学を研究し、授業しています。行政学は政治学の一部なのですが、この二つの学問はちょっと性格が違います。

政治学は悪い王様から議会が権力を奪っていく中で発展してきた学問です。その中で、どのような政治制度が望ましいのか、政治制度がどのように運用されているかが研究されてきました。そして悪い王様が居なくなって民主制度が定着すれば、今度は必ずしも理性的とは言えない多数者が、支配者たりうるのかという関心が生まれました。このように支配、権力、民主主義、自由などを扱う政治学は派手でロマンチックな学問です。

これに対して、行政学はそもそも王様に仕える家臣団の活動に源流があります。公共の福祉を実現するために、王様に良い政策を提言するのが行政学の最初期の目的で、その後、行政組織のデザインや管理などを学問の中心とするようになりました。日本では、民主的に選ばれたリーダーの意思をどう効果的に政策に反映させるのかという問題が、組織の面、権力関係の面から検討されてきました。政策に関する知識、専門能力は現場の行政の側にありますのでリーダーの考えが常に優れているというわけでもありません。誰かが悪い考えをもっているわけではなく、各々が本心から良かれと思って考えた意見が対立するから、世の中をよくすることは難しく、対立を解消することも難しい面があります。このような問題を扱うので、政治学と比べて行政学は地味でデリケートな学問です。

学生の皆さんは高校の教室で授業を受けていながら、ああこの教室を抜け出して、自由に生きたい思ったこともあると思います。そして今、皆さんは高校を卒業し、いよいよ教室からの自由を得ました。そうです支配からの自由を得たのです。しかし、これが難しい人生の始まりです。求めていた自由が手に入ったおかげで道に迷い、良かれと思って出した意見が原因で対立するということが、これからしばしばあると思います。映画やアニメなら、悪い王様を倒せば世の中はよくなってお話が終わるところですが、そのような単純な世界ではないところが、我々の生きる社会の難しさです。この悪い王様がいない世界を生きる羅針盤として、政治学のロマンチックなところと、行政学のデリケートなところが、皆さんのお役に立てるように、僕も頑張って授業します。

公開日:2017年2月